2009-02-07

10セントの意識革命


1986年、自分のオフィスを事務所ビルに構えたころ、ちょくちょく立ち寄っていただいたアートディレクターT大先輩に、ここへ来ると「オカダ君の脳内を見ているようだ」と言われた事があった。スタッフとは別に、約10坪の自分だけのオフィスは、2面が角窓で2面が角壁の、ほぼ正方形で、その壁が床から天井まで作り付けの本棚だったからなんだろうが、言われてみて気がついた。専門的洋書や全集物を除けば、棚は食から性まで、蟻から宇宙まで、もう森羅万象、多岐にわたっていた。それは、単に興味関心が沸いたままに並んでいった、いわば岡駄趣味のインデックスだったのだろうが、ふり返れば、自分と時代をつないだ所縁の書籍。常に回顧をともないながら進行する自分史と未来探索の装置だったのかもしれない。1992年、オフィスをたたむ時にスタッフルーム壁一面の、ほぼ創刊号から揃っていた和洋雑誌群を処分したが、5トントラック1台分には驚いた。2002年、離婚を期に東京へ都落ちする時にも、かつて自分のオフィスにあった書籍群が、やはり5トントラック1台分だった。その本を引き取りに来た古書店主が、ほくほく顔で「これだけバランスよい多趣味な稀本の初版が、まとまって出土したのを見たことが無い」と、唸っていたのを思い出す。ゲバラブームに物申す!がきっかけで、もはや幻、記憶の中の「オカダ文庫」を日々思い出し笑いしながらこうしてブログしていると、曲があの時を蘇らせるように、本もまた鮮明にあの時のまま蘇る。そして、あの時と大きく変わった我が外見と残り時間に焦らされるのだが。

10セントの意識革命 片岡義男 晶文社 1973年初版。 1973年といえば、ジャズと革命にのめり込んでいった高校3年の18歳。吉祥寺の下宿アパートで大学生たちに混じって唯一人の高校生だったころ。世は、ガロの「学生街の喫茶店」、かぐや姫の「神田川」が大流行。大学生も高校生も切ないフォークソングに酔っていた。クラスメイトたちはロックとフォーク。僕だけがジャズと革命。まるで今に通じる光景だ。片岡義男は、そんな時代に評論集「ぼくはプレスリーが好き」(1971)でデビューする。当時ジャズかぶれの僕は、何故か「10セントの意識革命」を手にしている。やがて来る学生運動の終焉を予感するはずもないけれど、彼の登場こそ、その後の「ポパイ」創刊につながるウェストコーストカルチャーの黒船だった。ふり返れば、当時の自分に、この1冊が近未来の種を植え付けた。僕は時代の転換点を潜在させながら、待ちわびた大学闘争に突入していった。デビュー以来、その後のウェストコーストの風に吹かれて人気作家となった片岡義男。今でも当時からのファンが多いにもかかわらず、後にも先にも僕の本棚にはこの1冊。それも322ページの中のわずか1節だけが永遠に刻まれている。それが僕の自動車乗りの気分。革命ここにありか。

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