2009-02-01

乱歩と東京


僕はかねがね、「ヒッチコックはリアルなヘンタイ」、「江戸川乱歩はサイバーな変態」だと思っている。触る変態と触らない変態。生身の快楽と妄想の快楽と言ってもいい。ヒッチコックはブ男ゆえ、公然と "絶世の美女と戯れる" "男子羨望の的を操れる" 唯一の権力者、映画監督になった。と言いたいほど、監督と主演女優は美女と野獣の典型だ。しかも、愛嬌あるひょうきんな体型を隠れ蓑に使うとは、けっこう狡猾なヘンタイだったのだろうと。しかし、乱歩はその比ではない。当時としては考えられない禁断の言葉、タブーな文字の中に妄想する変質者。その淫猥の妖味を陰湿に嗅ぎ舐める変態ぶりは類を見ない。それは人の自然な性愛への興味を一線越えた、性愛への屈折した視線。小説に使われる事件の背景、動機には、妻の不貞、姦通、淫乱、スワッピング、覗き、盗撮、死姦、人肉嗜好、生体埋葬、奇形、などなど、エロとグロが交錯する。そもそも題名自体が、「仮面の舞踏者」「一人二役」「陰獣」「虫」「盲獣」「蜘蛛男」「一寸法師」などなどと、読者の妄想を勃起させる、まるでポルノ。しかも、その変質者ぶりは、代表作「人間椅子」の息を潜めた見えない痴漢だ。匂い、舌触り、指の触覚、温もる体感、布一枚を境にした間接的性感に恍惚する快楽。大正時代の日本家屋と街の中で疼く、乱歩のゆがんだ性愛の快楽嗜好が、読者の秘められた淫猥をにじみわき出させる。密かに覗き見たい小説の中の恥部と、読者が秘めた淫猥な恥部を往還させて、交歓させあう高等な仕立てのポルノ小説。明智小五郎と小林少年の表二枚看板の裏で、真の乱歩が蠢いている猟奇の推理小説。と言ったら言い過ぎだろうか?

「乱歩と東京」 松山巌 Parco出版 1984年初版。 松山巌は、さすが建築家。いつも、建築的スケープから万象のディティールを観察し評論する達人だ。だから「乱歩と東京」は、見事にはまり役。1920年代の東京という街の成り立ちと、乱歩作品が夢想されていく思考過程を、小説の舞台となった町並みを今昔させながら、精緻なトレースで解読していく。乱歩目線から見た新鮮な東京論で、町並みから追った斬新な乱歩論。発刊の翌年(1985)、 第33回 日本推理作家協会賞受賞は大納得。映画「K-20 怪人二十面相・伝」も公開中な事だし、ご興味ある方は、図書館もしくは、古本市場へGOGOGO!すでに絶版なようなので。

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